<記録>秘密保護法違憲訴訟の林克明(原告)尋問調書
――原告ら代理人(堀)
(甲第17号証を示す)
これは陳述書ですけれども、林さんが作られた陳述書ですね。
林 はい、間違いないです。
――第1項というところで、申立人林克明の経歴ということが書いてありますけれども、ここに林さんの経歴、それからフリージャーナリストになってからの仕事の内容等について書いてあるということですね。
林 はい、そうです。
――内容的にはこのとおり間違いないということですか。
林 間違いないです。
――それで、まず世界のジャーナリズムから本件の秘密保護法がどのように評価されているかについてお伺いしたいと思います。この秘密保護法というのは世界のジャーナリズムから見てどのように評価されているんでしょうか。
林 例えばパリに本拠を置く国際ジャーナリスト組織で、国境なき記者団というのがあります。ここは毎年、世界の報道自由度ランキングというのを発表しておりまして、 日本は2013年から今年にかけて、53位から61位に順位を下げています。ちなみに2012年くらい、3年前はまだ12番とかなり高かったのが、急激に落ちています。
――随分順位が下がっているわけですけれども、その理由は何なんでしょうか。
林 原告団からここの団体に問い合わせたところ、秘密保護法が施行されたと、それが61位に下がった理由だという説明を受けました。
――(甲第81号証を示す)
これが今言われた取材の結果を記載した書類だということですね。
林 はい、そうです。
――この国境なき記者団というのはそのほかにどのような活動をされているんでしょう。
林 100人の報道ヒーローというものを選んでおりまして、直近では原告団の1人である寺澤有さんが、日本人としてはただ1人選ばれています。その受賞理由というのがまさに秘密保護法違憲訴訟、つまり本訴訟を提起した、これが受賞理由になってます。
――国際的に秘密保護法が強く批判されていると、それを示すような事例としてほかに何かありますでしょうか。
林 公益社団法人の日本外国特派員協会というものがありますけれども、ここが今年初めて報道の自由賞という賞を創設して、このときにはですね、元通産官僚の古賀茂明さん、そしてイスラム国に殺害されたジャーナリストの後藤健二さんが受賞されています。
――今説明された報道の自由賞というのはどういう賞なのでしょうか。
林 この賞は今年初めて創設されたもので、 日本外国特派員協会によりますと、安倍政権が発足してからメディアに対する圧力を強めてきたと。
その最たるものが秘密保護法であると。この秘密保護法に抵抗するジャーナリストたちを日本外国特派員協会としては支援したいと、そういう強い意図の下にこの賞は創設されたと、そのように説明を受けています。
受賞者の1人である古賀茂明さん、この方は本件訴訟で証人申請されておりますけれども、その点についてはいかがでしょうか。
林 当裁判所において是非古賀茂明さんの証人採用をやってくださるように強求めたいと思います。
――もう1人の受賞者である後藤健二さんですね、この方の事件、イスラム国による人質、それから殺害事件ですかね、これについてお伺いしたいと思います。この後藤さんの事件に関する真相あるいは政府の対応などについて、少しは真相は解明されているんでしょうか。
林 ほとんどと言っていいほどこの事件については解明されていません。特に問題だと思ったのは岸田外務大臣、安倍首相、菅官房長官、これらの重要な人物が、この事件には特定秘密が含まれていると、それをいちいち開示することはとてもできないというようなことを述べて、そのとおりいまだに分かっていないわけです。
――(甲第108号証を示す)
今の3人の閣僚の発言に関する、これは議事録なんですかね、この内容はこのとおりということでよろしいわけですね。
林 はい、そうです。
――詳細はこれを見ていただければ分かるということですね。
林 はい。
――この3者の発言を見て林さんはどのように思われましたか。
林 つまりこの人質事件について、深く追及したりすると、それはただじゃおかないぞというような、ジャーナリズムに対する威嚇だと私は感じました。
――要するに、取材に対する圧倒的な牽制といいますか、抑圧というか、そういうものだというふうに感じたということですか。
林 そういうふうに感じました。
――このイスラム国の問題について、林さんとして独自に取材をされたようなことはございますでしょうか。
林 はい、取材を試みました。ただ、今言ったように秘密保護法に絡められると非常に困ったことになりますので、誰が見ても正当であるというふうな方法を選びました。つまり、この事件に対して、まず行政文書を開示請求をしようと思って、そこから始めました。
――具体的にはどのような開示請求をされたんでしょうか。
林 外務省と内閣府に対して2つの点を請求しました。1つは人質の解放に絡む一連の文書一式。2つ目は、安倍首相が海外で、イスラム国絡みで人道援助をするということを言っていますので、それに関する文書一式。この2点を開示請求しました。
――(甲第82号証、甲第85号証、甲第90号証、甲第91号証を示す)
これは今言われた開示請求書で、甲第82号証と甲85号証、これはいわゆる外務省に対するものということですね。
林 はい、そうです。
――それから甲90号証と甲91号証、これは内閣府関係に対するものと。
林 はい、そのとおりです。
――内容的には同じということですね。
林 はい。
――それで、この開示請求に対して開示はされたんでしょうか。
林 まず外務省からですけれども、その文書の期限延長を知らせる通知が届いていまして、いまだに何も開示をされていないです。
――内閣府はどうですか。
林 内閣府に対しては2点請求したんですが、 2点とも文書が不存在という理由で開示されませんでした。
――(甲第99号証、甲第100号証を示す)
これがその不開示決定通知書ですね。
林 はい。
――この理由を見てみますと「本件文書について、作成及び取得をしておらず保有していないため」となっていて、要するに文書が存在しないという回答だったわけですね。
林 はい。
――通常、不開示の場合にはいわゆる不開示事情が存在するとか、そういう形で開示しないというケースが多いんですけれども、通常これまでの林さんの経験で不開示になる場合にはどのような扱いがされていましたか。
林 これまでの私の経験では、不開示の場合はその部分を墨塗りにして一連の文書が出されるということになっていました。ただ、今回の場合は文書不存在という一言で、全く文書が存在しないということですから、これはあり得ないことだと思いました。
――結局文書不存在ということですから、情報はー切知らされないということになるわけですね。
林 そうです。
――当然取材も不可能ということですか。
林 もう、かなりのところが止まってしまいました。
――開示請求は、内閣府の関係では不開示ということで終わったわけですけれども、これ以外に、取材とかアプローチをされたようなことはございますか。
林 その文書を請求した以外に、内閣府の担当部署に連絡して、是非いろんなことを教えてほしいということで、最初話をして、その後にファックスで11項目の質問状を送りました。
――(甲第92号証を示す)
これが内閣府宛ての質問書ということですね。
林 はい、間違いないです。
――11項目を質問したと。
林 はい。
――これに対する回答はどういうものでしたか。
林 今の質問項目の5番目にある政府関連の会合について教えてくれと、その部分についてはホームページを見てくださいと、それ以外のものは全ては外務省に聞いてくださいと、そういう答えでした。
――林さんとしては外務省のほうに問合せをされたんでしょうか。
林 はい、問合せをしまして、全く同じものではないですが、独自に質問項目を書いたファックスを送って、その到達した直後に連絡をして、お話を聞きました。
――(甲第93号証を示す)
これがその外務省に対する質問事項ということですね。
林 はい、そうです。
――具体的にこの質問事項を出して、担当者とやり取りのようなことはされたことはあるんでしょうか。
林 はい、実際にやり取りはしましたけれども、例えば亡くなった後藤さんの家族の人たちとの接触については、何回も面談したり電話をしたり、いろんな面で接触をとり、ケアもしていたと、そういう説明を受けたんですね。それに対して、例えば頻繁にといってもどのくらいなのか、せめて回数で教えてくれないかというようなアプローチをしたんですけれども、回数も教えることはできないという回答でした。
――それ以外にやり取りはありますか。
林 それとですね、今回の検証委員会が出している報告書というものが出ていますけれども、その有識者に対して出した情報というのが重要ですから、それのせめて一部でもいいから教えてくれないか、文書でも言葉の説明でもいいからお願いしますということを言いましたら、それは内閣府に聞いてくださいと言われました。
――そうすると、内閣府では、先ほどの開示請求では文書不存在ということでしたよね。
林 はい。
――すごい回答に矛盾がありますね。
林 はい、文書不存在って内閣府からは回答が来ているのに、外務省ではそれに関する一連のことは全て内閣府、いや、官房という言い方をしていましたけれども、官房に聞いてくださいと。これはやはり文書は不存在ではなく、存在はしているということだと私は理解しました。
――秘密保護法の関係で不存在と言わざるを得ないということなんでしょうか。
林 そういうことだと思います。
――それでは今の話に出ました検証委員会の検証報告についてお伺いします。(甲第97号証を示す)
これは検証報告書ですね。
林 はい。
――これは読まれましたか。
林 はい、これは全て、最初から最後まで全部読みました。
――それを読まれて、この内容についてどういうふうに思われましたか。
林 これでは詳しい内容が全然明らかにされていなくて、とても検証報告と呼ぶに値しないものだということが言えます。例えばですね、イスラム国と接点を持つ数少ない日本人として、イスラム法学者の中田考さん、そしてジャーナリストの常岡浩介さんがいたわけで、このお二人が人質絡みで現地に行こうとしていた矢先に、警視庁の公安部外事第3課が強制捜査に入って、出国を妨害してしまったという事実がありますけれども、この事件については全く報告書では触れられていません。これはですね、秘密保護法とフリージャーナリストの関係を明らかにする上で非常に重要ですので、今、御本人がそちらのほうに傍聴に来ていらっしゃいますけれども、是非この当裁判所において、ジャーナリストの常岡浩介さんの証言を是非とも採用してほしいと思います。
――(甲第72号証を示す)
今の常岡さんの事件に関する準抗告とかされているわけですけれども、その関係の決定ということでよろしいですね。
おっしゃった以外のジャーナリストあるいはフリージャーナリストの立場から見て、検証報告の内容で、林さんがこれはとても見過ごせないと思われた点はございますでしょうか。
林 危険地域に渡航する邦人の動きを制限しようというような意図が、はっきり報告書の中に出ていると思いました。
――(甲第97号証を示す)
39ページを示します。この部分でしょうか。
林 そうですね、ここでは今の渡航情報では法的な強制力はないから、今後そういったところに行く邦人に対しては法的措置も検討するというような意味のことも書かれています。
――これで見ますと、39ページの下から2番目の丸のところに書かれているということですね。
林 はい、そうですね、こういうことが気になりました。
――40ページを示します。これはいわゆる有識者の指摘によるんでしょうけれども、この点はいかがですか。
林 ここの有識者の見解のところなんですけれども、大手報道機関とフリージャーナリストは同列に扱うことはできないということをまず1点言っておいて、その後に大手マスコミの社員が現地に行かないで、フリージャーナリストにアウトソーシングしているということが続けば、今後も同じことが起こりうるということなんですけれども、これは見方によれば大手とフリーを差別しているようにも取れますし、後半の2点目の部分は幅広く、フリーだけでなくて、既成の大手メディアもこういった海外の取材を制限するような方向に動くんじゃないかというようなことを、この部分から見て取りました。
――その渡航制限ですけれども、具体的に最近そのような事例はあったんでしょうか。
林 はい、新潟在住の杉本さんという写真家の方は、外務省からパスポート返納命令を受けて返さざるを得なかったということがありますし、つい先月も鈴木さんという女性、若い女性ジャーナリストが現地に取材しようとして、 トルコの空港から強制送還されてしまったと、そういう具体的な事件もありました。
――要するに、この検証報告書を見ると、今後ジャーナリスト、あるいはフリージャーナリストを含めてですけれども、その取材活動とか行動に対する制限をしていこうと、そういう方向性が見えているということでしょうか。
林 はい、そういう方向が見えていると思います。
――この検証報告書全体を通して見えることは、林さんとしてはどういうふうに思われますか。
林 一番の問題点は検証委員会が有識者に対して出している一連の情報、これが一切明らかにされていないということが問題であって、これがそのまま何も追及されないで、認められてしまうと、秘密保護法ということを通して、今後このような問題が起きたときに、本当のことは一切外部に出ない、そして取材もできなくなってしまうという心配があると思います。
――この検証報告書はそのことを示しているということですね。
林 はい。
――それから、林さんのほうでは国会の情報監視審査会についても取材されたということですけれども、具体的にはどういうことを取材されたんでしょうか。
林 この審査会のメンバーで、もちろん国会議員の皆さんは公表されていますけれども、実際に細かなことをする事務方の方についての情報が余りにもなかったので、そこを知ろうとしました。特にそういうことに関わる人たちは適性評価を受けるわけですから、実際にこの適性評価がどのように運用され、やられているのか、これについて知ろうと思いました。
――具体的に担当職員の数とか実態とか、あるいは適性評価の実態、、これは分かりましたか。
林 それが全然分からなくて、私も質問を5項目に絞ってファックスで送り、それから電話でも連絡していろいろ聞いたんですけれども、その回答というのは、全てにおいて回答は差し控えさせていただきたいという返事を頂きました。
――(甲第94号証、甲第95号証を示す)
甲94号証が先ほどおっしゃった質問事項ですね、それと甲95号証といのがそれに対する回答ということで、一切答えについては差し控えたいと。
林 はい、全く回答がなかったです。
――この間林さんは、内閣府、外務省、あるいは国会のほうの事務局に取材されたわけですけれども、これらの取材を通じて、どういうふうなことが分かりましたか。
林 秘密保護法というものを使えば、何から何まで秘密になってしまって、本当のことが明らかにされないんだと、改めてこの秘密保護法は違憲であるということを確認してもらいたいと、改めて思いました。
――最後に、本件訴訟はフリーランスの表現者の方々が原告となって起こして、これまで裁判をやってきたわけですけれども、その思いとか理由について最後に述べていただきたい。よろしくお願いします。
林 今日本のジャーナリズムというのは本当に危機的な状況を迎えていると思います。例えば昨年のいわゆる朝日新聞バッシングというのもありましたし、今年に入ってから、テレビ朝日の報道ステーションに対する官邸からの圧力、そういったことも問題になっています。またNHKの報道は基本的に政府の意向に沿ったものになっている。こうしたことで本来のジャーナリズムの役割が果たせない状況になっています。こういう中で特に直接の規制を受けない私たちフリーランス表現者、ルポライター、フリーライター、ジャーナリスト、映画監督、報道写真家、あるいは編集者、こういう我々表現者が何とか果敢に取材しようとしているわけですが、そういう人たちに対して秘密保護法を引っ掛けられていろんな規制を受けてしまうんじゃないかと、それは何としても避けたいという思いもあってこの訴訟を提起しました。
特に法が定める報道従事者という言葉がありますけれども、ここに今言った我々フリーランス表現者、ルポライターとかジャーナリストとか映画監督とか報道写真家、こういう人たちをきちんとした報道従事者だということを認めてもらうためにもこの裁判を提起しました。
最後に一言付け加えさせていただきますと、今日本は大変な危機に陥っていると思います。国会で審議されている戦争関連の法案もありますし、そのこととこの秘密保護法というのは非常に連動していると思います。ですからこの裁判所において、この秘密保護法が違憲であるというような、歴史的判決を下していただけるように、心から強くお願いしたいと思っています。
――裁判長
後藤さんの事件のことについて幾つか取材をされたということで、書証としては甲92号証、甲93号証いうものが出ましたけれども、これはどちらかというと表立った取材に対する応対ということのお話だったように思いますが、何かそれ以外でこの関連あるいはそれ以外でも結構ですけれども、御主張されているような、この法律ができたがためにより取材が困難になるというような事情がもしありましたら、更に何か付け加えていただけると有り難いですが。
林 例えばこの人質事件に関しても、今日お話ししたのはいわゆる表の取材といいますか、オフィシャルな感じなんですけれども、遺族の方とその遺族の方に接触しているような方にもちょっとお話を聞いたりとかはしましたけれども、あんまりそこを進めてしまうと、やはりちょっと問題かなというような感じだったので、そこは途中でやめて、今日お話ししたような、正面からというか、文書開示請求であるとか広報を通して担当部局を紹介してもらって、そこの担当者から話を聞くということをやらざるを得ませんでした。
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