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2020年3月

2020年3月22日 (日)

<書評>『日本人に合ったがん医療を求めて』(水上治著。ケイオス出版)

Img033_20200322195101  がん告知日本人の自殺率の高さ(通常の約24倍!)の大きな原因の一つは、医者の意見を押し付ける傾向があることという。
 わが国の医者は、「命を一秒でも伸ばすが最善の医療」と信じ、転移ガン患者にもしきりに副作用の大きい抗がん剤を勧める。だが、欧米では型通りに勧めて患者が延命よりQOL(生活の質)を大切にしたいと拒否しても「いいですよ」と受け入れ、その後も親身に対応するという。
 もっとも、だらかといって著者は欧米のがん医療がすべてにおいて優れているとはいっていない。
 欧米流の医者と患者のドライな関係、自己主張して徹底的に議論し妥協や調整を図り「合意」を目指すやり方は、「場の調和」を重んじる日本的精神風土には合わないと考える。
 冒頭のがん告知後の突出した日本人の自殺率の高さは、そもそも日本人患者でがん告知を望む者は半分程度で、それにも拘わらず告知するため、欧米人と違ってうつ病にやり易い点もあると見る(日本人は脳内セレトニン代謝が低い事実も)。
 まして、米国ではがん告知とセットになっている余命告知は日本の文化に合わないので止めるべきという。
 本書は、西洋医学を根本としながらも、徹頭徹尾患者側に立ち、高濃度ビタミンC点滴療法を実施したパイオニアの一人でもあり「補完療法」も取り入れる著者が、他の医者、患者、患者の家族に一番伝えたい「本当のこと」が詰まったエッセイ的な内容。
 そして、本書を読めば、がんを宣告され暗闇のなかにいる患者、その家族にも一筋の光明を与えてくれること請け合いだ。
(1450円+税)

 

*なお、本紙・山岡は週刊誌のがん取材で何度もお世話になっている、それは、こんなに患者本位、本音で語ってくれるがん専門医を他に知らないからだ。

 

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2020年3月 6日 (金)

<書評>「大学の自治と学問の自由」(晃洋書房)

Img008  明治学院大学での「授業盗聴事件」は東京高裁で和解になったことは、昨年12月に「アクセスジャーナル」で報じたが、こうした大学自治や学問の自由に関連するブックレットのシリーズ第三弾「大学の自治と学問の自由」(寄川条路編著)が発売された。
 いま大学で何が問われているのか。昨年、文部科学省が「大学入試改革」として民間試験の導入を狙ったが、あまりに拙速で、かつ萩生田光一文科相の「身の丈に合わせてがんばって」発言もあり、取りやめになったのは記憶に新しい。
 だが本書を読むと、文科省の進める「大学改革」のもとで大学自治の形骸化が進むとともに、大学コミュニティ内部での権利侵害が、私たちの知らないところで多発していることに驚かされる。
 2010年以降に限っても、全国の大学でセクハラ・パワハラ、不正論文問題、スラップ訴訟、教職員の解雇などが多発しており、明治学院大学の事件は氷山の一角に過ぎないことがわかる。
 とりわけ深刻なのは、2004年の国立大学法人化以後、「大学ガバナンス改革」が進んだ結果、学長・理事会への権限集中や、「経営力の強化」の名のもとに大学の企業化が進行し、教員の解雇・雇止めがそれまでと比べ圧倒的に増加した、ということだ。
 問題なのは、それが「大学の民主主義や学問の自由を擁護する教員への恫喝や見せしめ的処分という性格が少なからずある」ことだろう(第1章 大学における学問の自由の危機とガバナンス問題)。
 長い目で見れば、「学問の自由」を失った大学はやがて日本社会全体の劣化を招くに違いない。「大学の現状を正確に把握して、その対策を考えるための実践的な批判書」(まえがき)と言える(本体1000円)。

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