書評『砂川判決と戦争法案~最高裁は集団的自衛権を合憲と言ったの!?』(旬報社)
年の瀬にあたり今年の国会を振り返るとき、何といっても最大の話題は安保法制関連法の審議だろう。
連日、国会周辺を数万人の市民が取り囲み、世論の過半数が「慎重・反対」の立場だったが、安倍政権は与党の数の力をもって安保法制を成立させた。これによって「専守防衛」の国是は大きく転換したことになる。
憲法学者の9割が「違憲」と判断したこの法案だが、安倍首相や関係閣僚が合憲だと主張した根拠が、「砂川判決の最高裁判決」(1959年)だった。
旧安保条約下の1950年代、日本の集団的自衛権など誰も思いもよらない時代の判決が、(唯一の)法的根拠というのだ。いかに法律のシロウトでも、ムチャクチャだと思う。だが、それを安倍政権は押し通した。
本書は、いわゆる「砂川事件」の元被告の証言や、砂川判決の分析、安保法制の概要等を10人の弁護士が執筆している。
砂川事件とは、基地拡張で反対運動が盛んだった米軍の旧立川基地内に、全学連の学生が侵入したとして「日米安保に基づく行政協定に伴う刑事特別法」違反が問われた裁判。一審は駐留米軍=安保条約そのものが違憲であるとして無罪とした(伊達判決)。ところが高裁を飛び越して最高裁(田中耕太郎裁判長)は有罪とした。当時からアメリカの圧力が囁かれていたが、2008年になって、田中裁判長が公判中に米側と密通していたことが、米公文書によって明らかになった。この詳しい経緯と、公文書の一部が本書に載っている。
安倍政権は苦し紛れに半世紀前の砂川判決を持ち出して、かえって今に続く自民党の対米従属ぶりをみずから暴露したのではないか。
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