書評『司法が凶器に変わるとき 「東金女児殺害事件」の謎を追う』(三宅勝久著。同時代社)
2008年9月に起きた「東金女児殺害事件」。住宅街の路上で5歳の女児が全裸死体で見つかるという衝撃的な事件だった。その後、知的障害をもつ21歳の勝木諒氏が被疑者として逮捕された。
当初「無実」を訴えた弁護人は突如、辞任。後任の弁護士は「勝木氏が犯人」と認めた。一審判決で懲役15年の有罪判決(後、確定)。「証拠」もそろい、被疑者自身も犯行を認める供述をしていた。
だが著者は、それでも「勝木氏がほんとうに犯人なのか信じることができなかった」という。
死因に関する解剖医の鑑定結果が二転三転したり、18キロの体重の女児を片手で担ぎ「ふとんより軽かった」とした勝木氏の不自然な供述。そもそも、知的障害を持つ勝木氏が、「殺人事件の被疑者」という自分の立場を理解しているのかも疑わしい。これは冤罪事件ではないのか――。
著者は法廷に通い詰め、勝木氏と裁判官、検察官とのやりとりを克明にメモする。その分析から浮かび上がるのは、障がい者差別、司法に対する疑問、そして事件をセンセーショナルに取り上げるだけで検証もしない記者クラブメディアの姿だった。
著者の三宅氏は、「秘密保護法違憲訴訟」原告の一人でもある。本人のブログはこちら。
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