書評「小説 大日本帝国印刷」(尾道号外著。集中出版。2000円+税)
昨年亡くなった作家・山崎豊子氏は、「白い巨塔」で大学病院の現実を暴き、「沈まぬ太陽」で航空会社の腐敗を暴いた。いずれも小説だが、綿密な取材に基づいた作品であり、ほとんどの読者はリアルなものとして受け止めただろう。
「小説 大日本帝国印刷 」の著者・尾道号外氏は、1977年に大日本印刷に入社し、18年在籍した経験を持つ。
大日本印刷といえば創業明治27年の老舗であり、年間の売上高1兆5,072億円を誇る、業界屈指の印刷会社だ。どこの大企業にもあるように、創業者一族の私物化、歪んだ支配の「噂」が絶えない。しかし、印刷でお世話になる週刊誌や月刊誌が、大日本印刷を批判できるだろうか。できるわけがない。
本書はあくまで「大日本帝国印刷」と小説の体裁をとっているが、創業者一族の人間性に迫ると共に、「日本発の産業スパイ事件」や「社会保険庁シール談合事件」など印刷業界の裏事情にもグッと迫る内容となっている。これは著者にしか書けなかったであろう。
「この出版にあたり、多くの関係者に取材させて頂いた。すべての方々から『頑張れ』と言葉を頂いた。その意味は現状を打破しなければ、大日本帝国印刷の全社員が気の毒すぎると皆、知っているからだ」(あとがき)
ぜひ現役の社員の方に読んでもらいたい一冊だ。
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