書評『NHKが危ない! ―「政府のNHK」ではなく、「国民のためのNHK」へ』(池田恵理子他、あけび書房)
NHKのディレクターやプロデューサーとして現場で番組制作に携わってきた3人が、NHKの現状に危機感を抱いて執筆したのが本書だ。
3氏が危機感を覚えるのは、言うまでもなく、安倍政権が登場して以後、安倍首相の肝いりの人物(百田尚樹氏、長谷川三千子氏など)がNHK経営委員に収まったり、会長に就任した籾井会長が露骨に政権寄りの発言をしていることが念頭にあるのはいうまでもない。
だが、それだけではない。「NHKの内部では、政治家との距離の近さを武器に『出世』して枢要な地位に登り詰めるタイプの幹部が常に存在してきました。そうした幹部管理職層が、政権や右翼的経営委員、会長の存在に力を得て、番組企画の締め付けをおこなう可能性は大いにありますし、そのような幹部でなくても、政治の圧力を想定して自己規制する傾向は伝統的に続いています」と、NHKの組織体質からして重大な危機感を執筆者たちは抱いている。そして、各人がこれまでの体験を率直に語っている。
具体的に詳細に取り上げられているのは、「戦争をどう裁くか」シリーズで旧日本軍「慰安婦」を取り上げた番組が、第一次安倍政権による政治介入で大幅に改ざんされた一件だ。NHK職員の内部告発で明らかにされたこの一件を見ると、“番組制作の良心”を貫くことの困難がわかる。
視聴者の視聴料で成立しているNHKが完全に「国策放送」になってしまってよいのか。視聴者こそ重大な危機感をもっと持つべきだろう。(本体1600円+税))
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