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2014年4月

2014年4月21日 (月)

書評『とことんやさしいヒト遺伝子のしくみ 』(生田哲著。サイエンス・アイ新書)

Img050_2 小保方晴子氏(理化学研究所研究ユニットリーダー)が発表した「STAP細胞」は捏造なのか否かが世間を騒がしているが、この疑惑を契機に、“遺伝子についてもっと知りたい”と思う方におすすめなのが、本書だ。
 アメリカの人気女優・アンジョリーナ・ジョリー昨年、まだ発症していないにも関わらず乳腺の切除手術をしたことが話題となった。これは遺伝子検査で、がん抑制遺伝子BRCA1に変異が見つかり、乳がんのリスクが87%と判明したためだという。
 著者が言うように、昔は病気の原因はウイルスといった病原体による感染が中心だったが、衛生環境の改善や食事の栄養価の高まり、医療技術の向上でそうした感染は劇的に減った。他方、先進諸国では、糖尿病やがんなど内因性の病気が圧倒的な割合となった。こうした病気のほとんどは遺伝子がからんでいる。
 遺伝性疾患は、バイオテクノロジーの進歩により、検査によってその可能性を把握したり(出生前診断もそのひとつ)、食生活の改善によって予防したりすることができるようになってきた。
 本書では、一般人にとっても気になる遺伝性疾患の詳細と、遺伝子治療の最新の動きが触れられている。血友病、小人症、フェニルケトン尿症など、これまで不治の病だったものの多くが、治療ないし抑制可能になってきたのだ。
 しかし、遺伝子の異常がなぜ病気を引き起こすのか、そもそも「遺伝」とはどのような仕組みなのかを知らないと、遺伝子治療について正しく理解することはできない。本書はDNAの仕組みやヒト遺伝学の基礎について、まったくの素人にもわかりやすく説明してくれる。
 人によってお酒が「呑める人・呑めない人」に別れるが、アルコール代謝システムも遺伝によって決まっている。こうしたエピソードも興味深い。
「今後ますますヒト遺伝子の研究が進みます。病気だけでなく、性格、知能、才能、運動能力なども遺伝子診断の対象となるでしょう。いまは、わたしたちがよりよい人生を歩むために、ヒト遺伝子の知識が欠かせない時代なのです」
 サイエンス・アイ新書の前著『ウイルスと感染のしくみ』と同様、全頁カラー、イラスト入り(本体1100円)。

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2014年4月10日 (木)

書評『日本人だけが信じる 間違いだらけの健康常識』(生田哲著。角川ONEテーマ21)

Photo「糖質制限で健康にやせる」「骨粗鬆症には牛乳が良い」・・・世間にはこうした“健康常識”がまことしやかに唱えられているが、それら一つ一つを論破し、かえって“健康を害する”ことを証明してみせたのが本書である。
 糖質制限を続ける人は、糖質を制限しなかった人に比べて死亡率が高いという衝撃的なデータがある。2010年、ハーバード大学のある博士が、約13万人を20~26年という長期間にわたって追跡調査した。その結果、糖質制限食によって男性は30%、女性は20%も死にやすくなっていた。
 著者は言う。「糖質の摂取を著しく減らす糖質制限食は、三大栄養素を二大栄養素にしようとする極端なダイエット法です。カロリーの取り方に偏りがあるばかりか、ビタミン、ミネラル、ファイバーが著しく不足しています。つまり、糖質制限食は『偏食ダイエット』なのです。偏食ダイエットを続ければ、健康を損ねるのは当然の結果といえるでしょう」。
 糖質制限を実践している人は多くないかもしれないが、「牛乳は健康によい」と思って毎日飲んでいる人は多いだろう。だが著者によれば「牛乳は健康によい」というのは「戦後の学校給食が作り出した健康神話」に他ならない。牛乳を飲んで下痢になった経験はないだろうか。実はそれは「乳糖不耐症」で、乳糖の分解能力を超えて摂取した結果、生じるもの。牛乳はアレルギーを引き起こし、さらには乳がんや前立腺がんを引き起こす可能性を高めるというから、驚く。
 他にも「高血圧の人は降圧薬を飲むべき」「コレステロール値低下薬を飲むべき」「うつになったら抗うつ薬」といった言説を、実証的なデータに基づいて、丁寧に批判している。
 これまで本紙・書評で生田氏の著書をたびたび取り上げてきたのでご存知の方も多いだろうが、生田氏は薬学博士で、アメリカで研究生活を続けてきた方。生化学、医学、薬学のエキスパートでもあるから、説得力がある。インチキな“健康法”で健康を害さないために、一読をお薦めする。

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