書評『海外神社跡地の景観変容 さまざまな現在』 (中島 三千男著。御茶の水書房)
日本近現代史が専門の中島三千男氏(神奈川大学学長)が、いわゆる「海外神社」109社の跡地をフィールドワークし、その研究成果をまとめたのが本書だ。
「海外神社」とは何か。それは戦前戦中、東アジアから南洋諸島に至るまで、「大日本帝国」の領土拡大に伴って建設された神社だ。日本が敗戦し、「大日本帝国」が崩壊すると、神社はその役割を終えた。神道は日本固有の宗教であるから、当然と言えば当然だ。
ところが、破壊されずに残された神社は、国によって様々な残され方をしていることが本書を読むとよくわかる。
現在、存在が確認されている海外神社は1640社にのぼる。そのうちフィールドワークしたのは109社。北はサハリン(樺太)から、南はインドネシアにいたる。
台湾・北部の新竹州桃園郡に建てられた桃園神社は、社殿部分を含めてまるごと保存されており、現在もカップルが結婚式に利用している。その一方、韓国にあった朝鮮神宮は破壊され、跡地には朝鮮の独立運動家・安重根の記念館が建っている。
興味深いのは宗教関連施設として利用されている例で、テニアン島(アメリカ合衆国の自治領)にあった和泉神社は現在、本殿の基壇とそれを取り巻く玉垣が残っているが、本殿部分には三体のキリスト教関係像が祀られている、とのことだ。
「日本帝国が崩壊した後の海外神社跡地の景観の変容は、たんに日本帝国支配下の歴史の残滓、残映というよりも、当該国・地域の様々な『現在』を映し出すものとなっているのである」(著者)。
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