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2013年5月31日 (金)

書評『ドキュメント遺伝子工学――巨大産業を生んだ天才たちの戦い』 (生田哲著。PHPサイエンス・ワールド新書)

Img013 「インスリン」と聞けば糖尿病をイメージする方も多いだろう。糖尿病は、インスリンのもつホルモン作用が低下し、体内に取り入れられた栄養素がうまく利用されなくなり、血液中のブトウ糖が多すぎてしまう状態だ。治療にはインスリンが欠かせないが、遺伝子組み換え技術で人工的にインスリンが生産できるようになったのは1970年代以後のこと。それ以前のインスリンは、ウシやブタから抽出して入手するしかなかった。
 今や世界で200兆円産業と言われるまで成長した遺伝子工学の原点は、アメリカを舞台に1970年代、天才的な科学者たちがしのぎをけずったインスリンの研究開発にあった。
 1976年5月、インディアナポリスにあるリリー社という製薬会社が開いた小さなセミナーが起爆剤になり、ハーバード大研究者のウォルター・ギルバート(後にノーベル化学賞を受賞)、ベンチャー企業のジェネンテック社に属する研究チームなどが、しのぎを削って開発競争を開始。そして1978年9月、シティ・オブ・ホープ研究所とジュネンテック社の科学者が、ついにヒトインスリンを遺伝子組み換えによって作成したことを発表する(ちなみに、スティーブ・ジョブズが初のホームコンピューター「Apple」を発表したのは1976年のこと)。
 その間、不眠不休で壮絶な実験競争を繰り広げた科学者たちの様子が、本書から生き生きと伝わってくる。科学者といえば、一般人からは分着冷静で、悪く言えば人間味に乏しいようなイメージがあるが、本書を読めば決してそんなことはないことがわかる。
 また「遺伝子工学」と聞くと難解に聞こえるが、例えば、遺伝子組み換えを「本の編集」(文章の読み取り、切り貼り、コピー)に例えて説明してくれる等、素人にも理解しやすい文章となっている。

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