書評「日本を大不況にした『日銀総裁たちの大罪』」 (川口文武著。双葉新書。本体819円)
日銀を退任した白川方明総裁に代わり、新たに登場した黒田東彦総裁。さっそく4月2日には、安倍政権の意向に沿って金融緩和を進め、2%の物価上昇目標の達成を2年程度で実現する、と述べたのは大手メディア既報のとおり。
日銀と政府との関係では昨年末、安倍首相が日銀法の改正に触れる発言をし、株価上昇と円安・ドル高が進行した。そのとき首相に対し、「日銀の独立性を損なう」「ハイパーインフレになる」といった反対意見が識者の中から巻き起こったのは記憶に新しい。
これに対し、本書の著者のスタンスはこうだ。「デフレの時にハイパーインフレの心配などする必要はない」「日銀の政府からの“独立権”など剥奪し、総裁の“解任権”を取り戻すべき」というものだ。
ここまで著者が日銀に対し批判的なのは、なぜか。
それはバブル崩壊後の大不況をもたらした主な原因と責任は、代々の日銀総裁にある、とみるからだ。「政府の経済失政や変転暇なき国際情勢よりも、長引く不況やデフレスパイラルの一番の原因は、景気を意図的に回復させない『日本銀行』の誤った金融政策にある」「日銀が、自らが満足する政策を行なえば行なうほど不況は長引き、その結果として、国民は貧困や失業にあえいでしまうのだ」と冒頭で喝破。
続く章でバブル経済を演出した澄田智・第25代総裁から白川方明・第30代総裁に至るまで、6人の日銀総裁のおこなった金融政策を吟味していく。
著者がもっとも激しく批判するのは、三重野康・第26代総裁(故人)だ。端的には、1990年8月30日に三重総裁によって行なわれた第5次利上げを“狂気の沙汰”と批判。これこそいまに連なる「デフレ不況の原点」であり、「多くの人々が普通の生活を失ったり、将来の人生設計を狂わされてしまった」と激しく糾弾している(「第3章 狂気に満ちた「三重野康・第26代総裁」の“バブル潰し”」より)。
少し厳しすぎる気がしないでもない。しかし「アイスランドのゲイル・ハーデ首相などは、08年に経済政策を誤って同国を破綻させたと弾劾裁判にかけられている(「終わりに」より)」と聞けば、日銀総裁がその金融政策の責任を一切問われない方がおかしい、という気になってくる(福島第一原発事故の責任も、いまだ追及されないのと同様に)。
速水優・第28代総裁以降について触れた類書は多いものの、それ以前の日銀総裁について触れた本はすでに入手困難になっている。
果たして日銀の金融政策が大不況をつくった原因なのかどうか、ぜひ本書を読んで判断して頂きたい。日銀の金融政策が景気回復の鍵と言われる今こそ、過去を振り返っておく必要もあるだろう。
なお本書では、そもそも日銀(中央銀行)の役割とは何かを、最初に丁寧に説明しており、馴染みのない読者の理解を助けている。
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