2022年3月 2日 (水)

本の紹介『60歳貯畜ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(長尾義弘著。徳間書店)

Photo_20220302144101  「老後の資金」問題を扱った本は数多く書店に並んでいるが、そのどれもがせいぜい50代までの年齢層を対象にしたものだ。
 ところが本書は、「60歳で貯蓄ゼロ」の人を想定し、60歳からどうやって老後資金を貯めていくのかを述べている稀な本だ。
 いま日本の60歳の4人に1人が貯蓄率が100万円未満、3人に1人が300万円未満、というデータがある。当事者にとって切迫した現状であり、だからこそそうならないように多くの人が「老後の資金」集めに頭を悩ませているわけだ。
 「60歳、貯蓄ゼロ」でも安心した老後を送るためには何が必要なのか? 株式投資などの資金運用が思い浮かぶが、本書は資金運用をしなくても老後資金を増やす方法を提示する。
 公的年金、退職金、社会保障制度の、<徹底した活用方法>がそれだ。
 サラリーマン、自営業者、単身者など5人のモデルが想定されているので、読者に近い立場のモデルが見つかるはずだ。
 年金は信用できるのか、どの時点で受給すればよいか、どこまで仕事をし続ければよいか、など素人には判断が難しいが、本書では極めてわかりやすく説明している。まだ60歳に届いていない人にも参考になる。
 なお本ブログでは、過去に著者の本を取り上げたことがある。『定年の教科書 お金 健康 生きがい』は本書に近いテーマで、老後をどうやって生きるかヒントになる良書だ。(本体1500円)

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2021年11月 8日 (月)

本の紹介『「生まれ変わり」を科学する』(大門正幸著)

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 本書のデータによれば、日本で「生まれ変わり現象」を信じている人は42.6%(2008年)。決して少なくない割合だ(ちなみに1位は台湾で59.8%)。
 ただ一般的には「科学的でない」とか、甚だしくは「オカルトもどき」と揶揄される傾向がある。実際はどうなのか? 日本における生まれ変わり研究の第一人者といえる大門正幸氏(中部大学大学院教授)の本書は、世界の生まれ変わり研究の実績と、自身の調査結果を踏まえて書かれており、生まれ変わり問題を考察するのに格好の一冊となっている。
 生まれ変わり研究の第一人者は、アメリカの精神科教授のイアン・スティーブンソン(1918-2007)という人物である。「前世の記憶をよみがえらせた」子どもにつき、40年にわたって面接調査をした。膨大な調査のうち本書ではいくつかの事例が取り上げられている。
 例えば、スリランカのある双子姉妹が、自分たちは反政府暴動を起こそうとして警官に殺害された双子の男性の生まれ変わりだと述べ、二人が知りようがない男性たちの死に際の詳しい状況を語ったというものだ。
 こうした「過去生を語る子どもの事例」を通してみるとき、それは子どもの親の信仰とは関係がないこと、また子どもは幼い頃に過去生の話をしだすが、成長するにつれて記憶は薄れていき、やがて忘れてしまうという特徴があることがわかってきたという。
 多くの驚くべき調査結果を見ても、生まれ変わりがあるか否かの判断は、読者の生死に関わる観念に委ねられるだろう。ただし生まれ変わり論にはそれなりの根拠があると知れば、「それを知らなかった頃と比べ、自分と自分を取り巻く世界を、より輝かしく、より愛しいものに感じさせて」くれるのは事実である(本書あとがきより)。
(桜の花出版。定価1485円)
 なお大門氏の著書は本紙でも過去、取り上げたことがある。
 書評『人は生まれ変われる。前世と胎内記憶から学ぶ生きる意味

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2021年8月23日 (月)

本の紹介『実録 明治学院大学〈授業盗聴〉事件―盗聴される授業、検閲される教科書』(寄川条路編)

51ezhcbzr8s_sx349_bo1204203200_  2015年に起きた明治学院大学の授業盗聴事件(2015年)については、これまでアクセスジャーナル本編でも3回取り上げたことがあるが、本書はその結末までを概括したもの。
 授業を無断録音(盗聴)されたことを大学側に抗議したために懲戒解雇された寄川条路教授が、地位確認を求め東京地裁に労働審判の申し立てをした。大学側は調停案を拒否したため、改めて東京地裁に地位確認訴訟として提訴。2018年、東京地裁は解雇違法の判決を出した。その後、控訴審で和解し、大学側は授業の無断録音を謝罪して和解金を支払った。
 学問や教育の自由に関わる重大裁判であったことから本紙も注目してきたが、本書はその具体的経緯ばかりでなく、大学側の主張やメディアの報道記事も含めて収録した概括的な本となっている。
 この事件が特異なのは、明治学院大学の「キリスト教主義の押しつけ」が強烈なこと。大学の校風に沿わない教員の授業は盗聴までおこない、それを理由に解雇するとは、まさに“中世の魔女狩り”を思わせる。
 本書第5章「新聞報道から」にはアクセスジャーナル記事が転載されている。参考までに紹介しておく。

(1)「いじめ対策せず」元高校女生徒に続き――大学でも「盗聴」に抗議する教授を懲戒解雇し提訴されていた「明治学院」

(2)明治学院大学――授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)

(3)和解も無断録音につき大学側謝罪――明治学院大学「授業盗聴」事件の結末

(社会評論社。本体1000円)

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2021年8月 4日 (水)

本の紹介『健康リスクから会社を守る!!』(佐藤典久・下村洋一共著。税務研究会出版局)

 51dxnphfapl_sx352_bo1204203200_  中小企業で働く人々の健康管理がますます必要な時代になった。中小企業に対しては、2020年4月から働き方改革関連法が適用されるようになり、2022年4月からはパワハラ防止法も適用される。加えて、昨年から新型コロナウイルス感染症対策に伴いテレワークなど「新しい働かせ方」への対応が日々、経営者に求められる。
 このような時代のなかで、経営者はどのような健康管理体制を敷き、働き方改革を実現しなければならないか。大企業と違い従業員の健康を管理する産業医がいない中小企業では、頭を悩ます経営者も多いのではないか。
 本書は健康診断の活用法や職場の感染症対策、メンタルヘルス、長時間労働者対策など、経営者として知っておかなければならない基本知識が網羅されている。本書副題の「知らなかったではすまされない従業員の健康管理と改正安衛法対策」がそれだ。
 ただそれだけではなく、少子高齢化で人手不足の業界も多い今の時代、高年齢者や障害者を雇用するにあたって、雇う側として注意しなければならないことも具体的に書かれている。
 言うまでもなく、従業員が健康なら生産性も向上するし、不健康なら生産性が低下する。そればかりか経営リスクにもつながる。
 経営者向けに書かれた本ではあるが、中小企業で働く人も自らの健康を守る上で、自分にどのような権利があるのか、知っておいた方がよい。
 株式会社日本産業医支援機構執行役員の佐藤典久氏と労働安全衛生コンサルタントの下村洋一氏の共著。(本体2000円)

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2021年6月25日 (金)

『看取り医 独庵』(根津潤太郎著。小学館文庫)

61mrtjjioxl_sx348_bo1204203200_  著者・根津潤太郎の本名は米山公啓氏で、医学博士(専門は神経内科)。これまで医学ミステリーや医学実用書など多数、執筆してきたが、本書は初の書き下ろし時代小説だ。
 舞台は江戸中期の浅草。漢方と西洋医術を治めた医師、独庵こと壬生玄宗が浅草に開いた診療所は、一流の医術の腕前が評判を呼んで大忙し。裕福な商人には法外な診察代を請求する一方、庶民の診察代は低く抑える好人物(こう聞くと手塚治虫の漫画「ブラックジャック」が思い浮かぶが、手塚治虫もまた医師資格を持っていた)。
 そんな独庵のもとにある往診依頼がやってくる。ある材木問屋の主・徳右衛門の脇腹に腫物があり、不治の病とされるのだが、独庵が診療したところ、思いもよらぬ仇討ち話に発展していく。剣の腕も経つ独庵、この事件をいかに解決するのか・・・。(税込726円)

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2021年6月23日 (水)

本の紹介『心と体を健康にする 腸内細菌と脳の真実』(生田哲著。育鵬社)

Photo_20210623171501  腸内細菌と脳は、実は深い関係にあると聞いても、ピンと来ない人が多いのではないか。
 先進諸国で、ASD(自閉スペクトラム症)をはじめとする発達障害の子ども急増しているのは事実。ASDの子どもに最も頻繁に現れる症状は便秘で、ASDの子どもの9割に腸の障害があるという。
 ここから始まって、脳と腸と腸内細菌の三つがどのように関わっているかを、最新の医学研究の成果をもとに論述したのが本書だ。
 ASDのほかにも鬱、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、関節リウマチといった、腸とは一見、何の関係もなさそうな症状が実は腸の不調と関係しているという。
 その腸の不調を本書ではリッキーガット(Leaky gut)と呼んでいる。これは腸壁に穴が開くことを指すが、長らく医学界の主流から“似非科学”と呼ばれてきたものの、最新の研究によって、これが腸内細菌がつくる毒素を通り抜けさせ、免疫系や肝臓に負担をかけることがわかってきた。そのことによって上記のような症状があらわれることになる。このメカニズムが本書の要になっている。
 リッキーガットを起こさないためには、腸内環境を改善する必要がある。その具体策は本書をお読みいただきたい。(定価1760円)

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2021年6月11日 (金)

本の紹介『定年の教科書 お金 健康 生きがい』(福岡武彦・長尾義弘共著。河出書房新社)

Photo_20210611173801   自分の定年後について、不安を抱えている人は多いだろう。老後資金はいくら必要なのか。介護が必要になったら、どうすればいいのか。あるいは、仕事に精を出してきた人なら、定年後の人生は何を生きがいにしたらよいのか。そんな疑問や不安に応えてくれるのが本書だ。
 定年後の老後資金はいくらかかるか(お金)、介護や認知症の不安にどう備えるか(健康)、老後の生き方はどうすればよいか(生きがい)という三つの分野についてカバーしているのが、類書にない本書の特徴である。
 なぜこの「お金・健康・生きがい」の三つなのかというと、この三つは密接に絡み合っており、三位一体だからだと著者は述べる。「健康を害すると、介護が必要になる。すると、介護費用が心配になってくる。さらには気分が落ち込み、要介護になったときの孤独感に苛まれる」。
 この3つの問題を解決できれば、悩みや不安のほとんどが解消する。当然のように思えるが、定年になってから慌ててこの3つの問題を考えるのと、そうでないのとでは心の準備がまったく違ってくる。
 定年を控えた方にぜひおすすめしたい本だ。
 なお、本書はフィナンシャルプランナーの長尾氏と税理士の福岡氏の共著であり、お金や仕事に関するプロである。(税込1540円)

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2021年6月 2日 (水)

本の紹介『いないことにされる私たち 福島第一原発事故10年目の「言ってはいけない真実」』(青木美希著。朝日新聞出版)

Photo_20210602180201  福島第一原発事故から10年が経った。汚染水処理問題など、いまだフクイチの現状はアンダーコントロールとはとても言えない状況だが、福島の復興そのものは進んだと思う人も多いのではないか。
 しかし復興とは、避難していた人々が帰還してこそ、だろう。福島県浪江町の帰還率はわずか5.4%(21年1月末現在。本書より)。これではとても復興したとは言えない。
 政府は17年3月末で自主避難者への住宅提供を打ち切った。自主避難者の生活はいまどうなっているのか。福島から大阪へ避難した母子に詳しく取材しているのが第1章「消される避難者」だ。
 住宅提供の打ち切りで困窮した家族のなかには、自死を選んだ人もいる。重い精神障害に陥っている人もいる。だが、政府は19年、医療費無料の措置を打ち切った。いまコロナ禍がさらに避難者を追いつめている。その具体的な事例が第2章「少年は死を選んだ」にいくつか登場する。
 本書を読むと、政府の言う「福島の復興」とは一体何を指しているのか怪しくなる。
 避難者の自殺について取材を進める著者はある日、厚労省の係長がこんな言葉をつぶやくのを聞いた。「どこまでそういう人たちにおつきあいしなければならないんですかね」。これが政府の本音なのだ。
 避難者をめぐる報道が減る中、現場にこだわる著者ならではの本書を多くの方に薦める。なお以前、同著者の『地図から消される街』(2018年、講談社現代新書)を紹介したことがあるが、本書はその続編に相当する。

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2021年4月 2日 (金)

本の紹介『遺伝子のスイッチ 何気ないその行動があなたの遺伝子の働きを変える』(生田哲著。東洋経済新報社)

 51vfnefayl_sy344_bo1204203200_  本書のテーマである「遺伝子のスイッチ」とは、「エピジェネティクス(epigenetics)」のこと。と聞いても素人には何のことだかわからないが、「DNAにタグをつけたり、つけたタグをはずしたりすることによって、DNAの塩基配列を変化させることなく、遺伝子の働きを変えること」(本書)という。
 この研究がいま爆発的に進行中している。それにより、私たちの日常の様々な出来事はこのエピジェネティクスが引き起こしていることがわかってきた。
 たとえば、「薬物依存や食べ物依存は本人の意志が弱いから起こるのではないこと、子どもの頃の逆境が大人になってからの生活習慣病の引き金になること、子どもの性格を決めるのは母親による子どものケアであること」がエピジェネティクスを根拠にして、本書で説明されていく。
 遺伝子がその人のあり方全てを規定するのではなく、育てられてきた環境によってその人自身が変化していくものであることが、本書を読むとよくわかる。
 となれば、その仕組みを知ることは、自分の人生(肉体的、精神的な疾患の予防など)や育児にも役立つわけで、多くの人に読んでほしい本だ。(定価1980円)

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2020年12月 7日 (月)

<書評>永山久夫著『美女が長寿食を好む理由』(春陽堂書店)

51wjqx8eksl_sx338_bo1204203200_  日本の食文化史研究家である永山氏の著作については、本紙でも今年早々に取り上げている
 本書のテーマは、ずばり「歴史上の美女はどのような食生活を送っていたのか」。
 卑弥呼や楊貴妃から始まって、平安時代の小野小町や紫式部、荒武者と呼ばれた巴御前や女忍者の望月千代女、江戸時代の笠森お仙に至るまで、彼女たちはどんな食生活をしていたか。
「そんな昔の食生活まで、どうしてわかるのだろう」と驚くが、さすが食文化研究の第一人者、その時代の文献を根拠にして論じているし、興味深いエピソードが絡むので飽きさせない。
 話は現代では森光子、淡谷のり子、きんさんぎんさんに至るが、いずれの方々も健康で長生きされた。その長寿の秘訣は食生活にあった。
 そして歴史上、美女が共通して摂っていたものとは、その時代ごとに呼び名は異なるが「野菜スープ」であったことがわかる。
 古来から日本人は、それが医学や科学で「健康に良い」「美容に良い」ことが証明されていなくても、自分の身体で本能的に何が正しい食生活か、知っていたようなのである。
 ところで著者はいま、コロナ禍で免疫力をつける食事をテーマに、「コロナ時代の長寿食」を執筆中とのこと。発刊が待たれる。
(1600円+税)

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«<書評>『沖縄空手への旅ーー琉球発祥の伝統武術』(柳原滋雄著。第三文明社)