2021年6月25日 (金)

『看取り医 独庵』(根津潤太郎著。小学館文庫)

61mrtjjioxl_sx348_bo1204203200_  著者・根津潤太郎の本名は米山公啓氏で、医学博士(専門は神経内科)。これまで医学ミステリーや医学実用書など多数、執筆してきたが、本書は初の書き下ろし時代小説だ。
 舞台は江戸中期の浅草。漢方と西洋医術を治めた医師、独庵こと壬生玄宗が浅草に開いた診療所は、一流の医術の腕前が評判を呼んで大忙し。裕福な商人には法外な診察代を請求する一方、庶民の診察代は低く抑える好人物(こう聞くと手塚治虫の漫画「ブラックジャック」が思い浮かぶが、手塚治虫もまた医師資格を持っていた)。
 そんな独庵のもとにある往診依頼がやってくる。ある材木問屋の主・徳右衛門の脇腹に腫物があり、不治の病とされるのだが、独庵が診療したところ、思いもよらぬ仇討ち話に発展していく。剣の腕も経つ独庵、この事件をいかに解決するのか・・・。(税込726円)

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2021年6月23日 (水)

本の紹介『心と体を健康にする 腸内細菌と脳の真実』(生田哲著。育鵬社)

Photo_20210623171501  腸内細菌と脳は、実は深い関係にあると聞いても、ピンと来ない人が多いのではないか。
 先進諸国で、ASD(自閉スペクトラム症)をはじめとする発達障害の子ども急増しているのは事実。ASDの子どもに最も頻繁に現れる症状は便秘で、ASDの子どもの9割に腸の障害があるという。
 ここから始まって、脳と腸と腸内細菌の三つがどのように関わっているかを、最新の医学研究の成果をもとに論述したのが本書だ。
 ASDのほかにも鬱、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、関節リウマチといった、腸とは一見、何の関係もなさそうな症状が実は腸の不調と関係しているという。
 その腸の不調を本書ではリッキーガット(Leaky gut)と呼んでいる。これは腸壁に穴が開くことを指すが、長らく医学界の主流から“似非科学”と呼ばれてきたものの、最新の研究によって、これが腸内細菌がつくる毒素を通り抜けさせ、免疫系や肝臓に負担をかけることがわかってきた。そのことによって上記のような症状があらわれることになる。このメカニズムが本書の要になっている。
 リッキーガットを起こさないためには、腸内環境を改善する必要がある。その具体策は本書をお読みいただきたい。(定価1760円)

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2021年6月11日 (金)

本の紹介『定年の教科書 お金 健康 生きがい』(福岡武彦・長尾義弘共著。河出書房新社)

Photo_20210611173801   自分の定年後について、不安を抱えている人は多いだろう。老後資金はいくら必要なのか。介護が必要になったら、どうすればいいのか。あるいは、仕事に精を出してきた人なら、定年後の人生は何を生きがいにしたらよいのか。そんな疑問や不安に応えてくれるのが本書だ。
 定年後の老後資金はいくらかかるか(お金)、介護や認知症の不安にどう備えるか(健康)、老後の生き方はどうすればよいか(生きがい)という三つの分野についてカバーしているのが、類書にない本書の特徴である。
 なぜこの「お金・健康・生きがい」の三つなのかというと、この三つは密接に絡み合っており、三位一体だからだと著者は述べる。「健康を害すると、介護が必要になる。すると、介護費用が心配になってくる。さらには気分が落ち込み、要介護になったときの孤独感に苛まれる」。
 この3つの問題を解決できれば、悩みや不安のほとんどが解消する。当然のように思えるが、定年になってから慌ててこの3つの問題を考えるのと、そうでないのとでは心の準備がまったく違ってくる。
 定年を控えた方にぜひおすすめしたい本だ。
 なお、本書はフィナンシャルプランナーの長尾氏と税理士の福岡氏の共著であり、お金や仕事に関するプロである。(税込1540円)

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2021年6月 2日 (水)

本の紹介『いないことにされる私たち 福島第一原発事故10年目の「言ってはいけない真実」』(青木美希著。朝日新聞出版)

Photo_20210602180201  福島第一原発事故から10年が経った。汚染水処理問題など、いまだフクイチの現状はアンダーコントロールとはとても言えない状況だが、福島の復興そのものは進んだと思う人も多いのではないか。
 しかし復興とは、避難していた人々が帰還してこそ、だろう。福島県浪江町の帰還率はわずか5.4%(21年1月末現在。本書より)。これではとても復興したとは言えない。
 政府は17年3月末で自主避難者への住宅提供を打ち切った。自主避難者の生活はいまどうなっているのか。福島から大阪へ避難した母子に詳しく取材しているのが第1章「消される避難者」だ。
 住宅提供の打ち切りで困窮した家族のなかには、自死を選んだ人もいる。重い精神障害に陥っている人もいる。だが、政府は19年、医療費無料の措置を打ち切った。いまコロナ禍がさらに避難者を追いつめている。その具体的な事例が第2章「少年は死を選んだ」にいくつか登場する。
 本書を読むと、政府の言う「福島の復興」とは一体何を指しているのか怪しくなる。
 避難者の自殺について取材を進める著者はある日、厚労省の係長がこんな言葉をつぶやくのを聞いた。「どこまでそういう人たちにおつきあいしなければならないんですかね」。これが政府の本音なのだ。
 避難者をめぐる報道が減る中、現場にこだわる著者ならではの本書を多くの方に薦める。なお以前、同著者の『地図から消される街』(2018年、講談社現代新書)を紹介したことがあるが、本書はその続編に相当する。

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2021年4月 2日 (金)

本の紹介『遺伝子のスイッチ 何気ないその行動があなたの遺伝子の働きを変える』(生田哲著。東洋経済新報社)

 51vfnefayl_sy344_bo1204203200_  本書のテーマである「遺伝子のスイッチ」とは、「エピジェネティクス(epigenetics)」のこと。と聞いても素人には何のことだかわからないが、「DNAにタグをつけたり、つけたタグをはずしたりすることによって、DNAの塩基配列を変化させることなく、遺伝子の働きを変えること」(本書)という。
 この研究がいま爆発的に進行中している。それにより、私たちの日常の様々な出来事はこのエピジェネティクスが引き起こしていることがわかってきた。
 たとえば、「薬物依存や食べ物依存は本人の意志が弱いから起こるのではないこと、子どもの頃の逆境が大人になってからの生活習慣病の引き金になること、子どもの性格を決めるのは母親による子どものケアであること」がエピジェネティクスを根拠にして、本書で説明されていく。
 遺伝子がその人のあり方全てを規定するのではなく、育てられてきた環境によってその人自身が変化していくものであることが、本書を読むとよくわかる。
 となれば、その仕組みを知ることは、自分の人生(肉体的、精神的な疾患の予防など)や育児にも役立つわけで、多くの人に読んでほしい本だ。(定価1980円)

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2020年12月 7日 (月)

<書評>永山久夫著『美女が長寿食を好む理由』(春陽堂書店)

51wjqx8eksl_sx338_bo1204203200_  日本の食文化史研究家である永山氏の著作については、本紙でも今年早々に取り上げている
 本書のテーマは、ずばり「歴史上の美女はどのような食生活を送っていたのか」。
 卑弥呼や楊貴妃から始まって、平安時代の小野小町や紫式部、荒武者と呼ばれた巴御前や女忍者の望月千代女、江戸時代の笠森お仙に至るまで、彼女たちはどんな食生活をしていたか。
「そんな昔の食生活まで、どうしてわかるのだろう」と驚くが、さすが食文化研究の第一人者、その時代の文献を根拠にして論じているし、興味深いエピソードが絡むので飽きさせない。
 話は現代では森光子、淡谷のり子、きんさんぎんさんに至るが、いずれの方々も健康で長生きされた。その長寿の秘訣は食生活にあった。
 そして歴史上、美女が共通して摂っていたものとは、その時代ごとに呼び名は異なるが「野菜スープ」であったことがわかる。
 古来から日本人は、それが医学や科学で「健康に良い」「美容に良い」ことが証明されていなくても、自分の身体で本能的に何が正しい食生活か、知っていたようなのである。
 ところで著者はいま、コロナ禍で免疫力をつける食事をテーマに、「コロナ時代の長寿食」を執筆中とのこと。発刊が待たれる。
(1600円+税)

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2020年10月 5日 (月)

<書評>『沖縄空手への旅ーー琉球発祥の伝統武術』(柳原滋雄著。第三文明社)

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 空手をほんの少しだけかじっている本紙・山岡からすればまさに「目からうろこ」の書。
 空手の発祥が沖縄(琉球)であることは知っていたが、お恥ずかしながらそれだけのことだと思っていた。
 ところが、本書によれば似てあらざるものであることがよくわかった。
 本当にやるのかひじょうに怪しいが、来年の東京五輪でオリンピック初の種目に選ばれ関心が高まる空手。
 だが、本土で行われている空手はケガをしないことを考慮し、決められたルールのなかで行われるスポーツ競技の1つに過ぎないと。確かに顔面パンチ、金的蹴りなど禁止されていることだけ見てもその通りだろう。だが、本書を読み進むとそんなレベルの差ではないことがよくわかる。
 沖縄空手は生死をも掛けた実践で勝つための武術。当然、顔面、金的など何でもあり。その実践では、スポーツ空手でよく使う上段蹴りなど簡単に足をすくわれ使えない。フルコンタクト空手もその点は同じ。
 そして、何より本紙・山岡がハッと思ったのは、スポーツ空手は体力勝負の面が大きいので40歳ともなれば若い選手に負けてしまうことも。ところが、武術の沖縄空手はひじょうに合理的で、体力差に関係なく、その技を取得したら老人でも若者に勝てる。そのため、極真空手で若いころチャンピォンになった者でも沖縄空手に魅せられる者は多いという。
 その差はとてもこの書評で書けるものではないが、あえていえばスポーツ空手は力まかせの「剛体」。これに対し沖縄空手はナイハンチ腰(足幅をやや広めにとり心なしか腰を落とした立ち方)で力を抜いた状態から繰り出すしなやかな技=「柔体」。突き詰めれば、実に合理的な「骨格操作」の技法であり合気(道)にも通じるという。
 こうしたことから、沖縄は2005年から3月29日を「空手の日」に制定。世界中からスポーツ空手では満足できない者が来沖。また、今回の東京五輪で空手を種目に入れることに関しては、それはスポーツ空手であることから、賛否両論あったという。
 なお、誤解のないように断っておくが、沖縄空手の指導者の多くは、スポーツ空手→試合をしないとわからないこともあるということで、決してスポーツ空手を否定しているわけではない。
 とはいえ、本書に触れ、本紙・山岡も沖縄空手を習いたい気になった次第。
 筆者は、そもそもは極真空手でやっていたが辞めていたところ、たまたま知り合い、本紙・山岡がやっていたいわゆるスポーツ空手に誘ったことで再度始め、ほどなくそれに飽き足らず退会。そして、今や沖縄空手を追及してという縁あってのこと。
 献本してくれ、それにより偉大な沖縄空手の存在に気づかせてくれたことに切に感謝したい。
(1600円+税)

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2020年5月13日 (水)

<書評>『新型コロナウィルス・NEWSウォッチーーコロコロ日記』(ヒグマルコ著。リーダーズノート出版)

51pmznaidvl_sy346_  5月13日現在も、新型コロナウイルスのパンデミックが進行中である。世界の感染者は422万人、死者28万人にのぼっている(日本国内の感染者は1万6761人、死者は691人)。今後、感染の第2波も予想され、まったく予断を許さない。
 本書には、今年1月9日「中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎が発生」の中国・国営放送のニュースから、4月13日「緊急事態宣言は『遅すぎた』が8割」といった国内報道に至るまでの情報が、1日1ページずつ、イラスト入りでわかりやすく綴られている。
Img009 「トランプ大統領、アメリカではコントロールできていると発言」(2月26日)、「タイ国王が女性20人連れてドイツの超高級ホテルに逃亡」(3月29日)といった海外の動向から、「岩手の病院臨時職員がマスクを盗んで転売」(2月29日)、「京大・山中教授が『一日も早く手を打たないと大変なことになる』と強い危機感を表明」(4月2日)といった国内の動向について日を追う形で載せている。興味深いのは大手メディア報道だけでなく、デマやSNS情報も「歴史」の一コマとして触れていることだ。
 生活激変の真っ最中だが、新型コロナ発生から現在に至るまで、いま落ち着いて振り返ってみよう。それはあふれかえる情報を整理し、私たちが置かれている現実を見直すために有意義なことだ。
 著者は神奈川県横浜市出身の「巣ごもり」デザイナーで、40代女性。

(1000円+税)

 

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2020年3月22日 (日)

<書評>『日本人に合ったがん医療を求めて』(水上治著。ケイオス出版)

Img033_20200322195101  がん告知日本人の自殺率の高さ(通常の約24倍!)の大きな原因の一つは、医者の意見を押し付ける傾向があることという。
 わが国の医者は、「命を一秒でも伸ばすが最善の医療」と信じ、転移ガン患者にもしきりに副作用の大きい抗がん剤を勧める。だが、欧米では型通りに勧めて患者が延命よりQOL(生活の質)を大切にしたいと拒否しても「いいですよ」と受け入れ、その後も親身に対応するという。
 もっとも、だらかといって著者は欧米のがん医療がすべてにおいて優れているとはいっていない。
 欧米流の医者と患者のドライな関係、自己主張して徹底的に議論し妥協や調整を図り「合意」を目指すやり方は、「場の調和」を重んじる日本的精神風土には合わないと考える。
 冒頭のがん告知後の突出した日本人の自殺率の高さは、そもそも日本人患者でがん告知を望む者は半分程度で、それにも拘わらず告知するため、欧米人と違ってうつ病にやり易い点もあると見る(日本人は脳内セレトニン代謝が低い事実も)。
 まして、米国ではがん告知とセットになっている余命告知は日本の文化に合わないので止めるべきという。
 本書は、西洋医学を根本としながらも、徹頭徹尾患者側に立ち、高濃度ビタミンC点滴療法を実施したパイオニアの一人でもあり「補完療法」も取り入れる著者が、他の医者、患者、患者の家族に一番伝えたい「本当のこと」が詰まったエッセイ的な内容。
 そして、本書を読めば、がんを宣告され暗闇のなかにいる患者、その家族にも一筋の光明を与えてくれること請け合いだ。
(1450円+税)

 

*なお、本紙・山岡は週刊誌のがん取材で何度もお世話になっている、それは、こんなに患者本位、本音で語ってくれるがん専門医を他に知らないからだ。

 

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2020年3月 6日 (金)

<書評>「大学の自治と学問の自由」(晃洋書房)

Img008  明治学院大学での「授業盗聴事件」は東京高裁で和解になったことは、昨年12月に「アクセスジャーナル」で報じたが、こうした大学自治や学問の自由に関連するブックレットのシリーズ第三弾「大学の自治と学問の自由」(寄川条路編著)が発売された。
 いま大学で何が問われているのか。昨年、文部科学省が「大学入試改革」として民間試験の導入を狙ったが、あまりに拙速で、かつ萩生田光一文科相の「身の丈に合わせてがんばって」発言もあり、取りやめになったのは記憶に新しい。
 だが本書を読むと、文科省の進める「大学改革」のもとで大学自治の形骸化が進むとともに、大学コミュニティ内部での権利侵害が、私たちの知らないところで多発していることに驚かされる。
 2010年以降に限っても、全国の大学でセクハラ・パワハラ、不正論文問題、スラップ訴訟、教職員の解雇などが多発しており、明治学院大学の事件は氷山の一角に過ぎないことがわかる。
 とりわけ深刻なのは、2004年の国立大学法人化以後、「大学ガバナンス改革」が進んだ結果、学長・理事会への権限集中や、「経営力の強化」の名のもとに大学の企業化が進行し、教員の解雇・雇止めがそれまでと比べ圧倒的に増加した、ということだ。
 問題なのは、それが「大学の民主主義や学問の自由を擁護する教員への恫喝や見せしめ的処分という性格が少なからずある」ことだろう(第1章 大学における学問の自由の危機とガバナンス問題)。
 長い目で見れば、「学問の自由」を失った大学はやがて日本社会全体の劣化を招くに違いない。「大学の現状を正確に把握して、その対策を考えるための実践的な批判書」(まえがき)と言える(本体1000円)。

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«<書評>『日本長寿食辞典』(悠書館)、『徳川ごはん』(mores出版)。どちらも著者は永山久夫氏