2023年9月13日 (水)
2023年5月22日 (月)
本の紹介『超新説で読みとく 信長・秀吉・家康の真実』(跡部蛮著)
NHK大河ドラマ「どうする家康」を見て、これが戦国乱世を生き抜き、江戸幕府を切り開いたあの徳川家康なのか、と戸惑う人が多いらしい。私たち後世の人間は、江戸時代に作られ、神格化された家康像を知らず知らずのうちに引き継いでいる。
歴史研究家の著者・跡部蛮氏によれば、いま、信長、秀吉、家康という戦国の「三英傑」について、次々と新説や新解釈が飛び出しているという。「諸説を整理したうえで、最新の説に筆者自身の新解釈を加え、まったく新しい三英傑たちの歴史」を描き出したのが本書だ(「はじめに」より)。
例を引こう。信長の「本能寺の変」は、「光秀が単独で謀反に及んだ」(単独犯)、「別の主犯が存在し、光秀はその“真犯人”の操り人形だったとする説」(真犯人存在説)、「主犯は光秀ながら事件の背後に光秀を後押しする黒幕がいた」(黒幕存在説)の三つの説があるという。著者の解釈はそれらを踏まえつつ、光秀が謀反を起こすに至った真の動機と背後関係について、歴史の素人にもわかるよう解説してくれる。
ほかにも秀吉の朝鮮出兵は「銀を売るのが本当の狙いだった」こと、「関ケ原の合戦は天下分け目の合戦にあらず」等、著者の新解釈を読むと、これまでの三英傑のイメージが大きく覆される。(本体1500円+税)
2023年2月 1日 (水)
『「健康神話」を科学的に検証する それホントに体にいい? 無駄?』(生田哲著。草思社)
テレビやインターネットでは日々、健康に関する様々な通説があふれている。「抗生物質がカゼの原因とされるばい菌を殺す」「少しの飲酒はまったく飲まないよりも健康にいい」「がんは遺伝子の病気である」「日本人はカルシウムが不足している」等々。
これらは実は、すべて 間違った健康知識だった。
本書は健康にまつわる様々な「神話」を16のカテゴリーにわけて検証しているのだが、類書と違うのは、科学的に検証され、出典が明記された論文にもとづく検証であり、かつ、特定企業がスポンサーになっていない情報を根拠にしている点だ。
たとえば「少しの飲酒はまったく飲まないよりも健康にいい」という通説は「ウソ」であり、「アルコールは摂取量にかかわらず有害」なのであるが、その根拠は、ワシントン大学医学部のグループがアルコールの影響に関する約600の治験論文を集めて分析し、医学雑誌「ランセット」に掲載した論文(2018年)にもとづいている。この論文によれば、1日2杯飲む人はまったく飲まない人にくらべ、健康リスクが7%も上昇する、1日5杯飲むと37%も上昇する、というのだ。
健康にまつわる情報は、飲食産業だけでなく、様々な業界のビジネスになっている。惑わされないためには、自分の健康を自分で守れる知見を養うしかない。本書はそのためにきわめて有用だ。(本体1980円)
2022年9月 5日 (月)
本の紹介『さかのぼり武士の日本史』(跡部蛮著)
NHKの「ファミリーヒストリー」というドキュメンタリー番組は、著名人の家族の歴史を本人に代わって取材して、家族の成り立ちを探る人気番組。家族の歴史をたどると、本人もまったく知らなかった意外な事実が明らかになり、感動させられる回もある。
本書はファミリーヒストリーの戦国武将版、と言えるだろう。しかもその家系ルーツをたどるスケールが遥かに長い。例えば、「幕末の長州藩で俗論派の首魁という悪名を一心に受けた椋梨藤太の先祖をさかのぼると、頼朝の幕府創業を支えた功臣にたどりつきます」(まえがき)とあるように、千年という時間軸だ。
当然、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった天下統一を成し遂げた家系についても、それぞれの「家」に隠された秘密を探ることとなる。
それは家系をさかのぼって辿る、日本史の「外伝」とも言えるだろう。本紙で前回紹介した『こちら歴史探偵事務所』に続く、跡部蛮氏の最新刊だ(本体1650円、ビジネス社)。
2022年6月 1日 (水)
本の紹介『こちら歴史探偵事務所! 史実調査うけたまわります』(跡部蛮著。五月書房新社)
歴史研究家の跡部蛮氏の著作は、これまで本紙でたびたび取り上げてきたが、本書はだいぶ趣向が異なっている。
「みよしの歴史探偵事務所」の深吉野良(主人公)が、日本史マニアの女子学生「式部」を助手として、日本の歴史の「よくわかっていないところ」を調査するという筋書き。
この、探偵と助手という組み合わせは昔のドラマでよく見られた懐かしい設定で、一見すると陳腐なのだが、“歴史の裏を追う”のが目的というところがまったく異色。ポップな探偵小説の体裁を借りながらも、歴史研究家としての跡部氏の本領がいかんなく発揮されている。
一例をあげると、「史実調査ファイル06 坂本龍馬暗殺の黒幕は『土佐藩』だった?」。主人公と助手が京都の龍馬暗殺の現場を訪ねつつ、史実にもとづきながら暗殺の真相を推理していく。暗殺したのは京都見廻組で定着しているものの、黒幕については諸説ある。暗殺現場の近江屋と土佐藩邸の位置関係を現場を歩きながら示し、当時の土佐藩内の抗争を踏まえて、暗殺の黒幕は「土佐藩」との大胆な仮説を提示している。
ほかにも放映中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にちなんで「源平合戦の新説」「北条義時の謎」「鎌倉幕府誕生の本当の年」などを探偵が推理している。日本史の謎、論争点を素人でも気軽に読める本としておすすめ。(本体2100円)
2022年3月 2日 (水)
本の紹介『60歳貯畜ゼロでも間に合う 老後資金のつくり方』(長尾義弘著。徳間書店)
「老後の資金」問題を扱った本は数多く書店に並んでいるが、そのどれもがせいぜい50代までの年齢層を対象にしたものだ。
ところが本書は、「60歳で貯蓄ゼロ」の人を想定し、60歳からどうやって老後資金を貯めていくのかを述べている稀な本だ。
いま日本の60歳の4人に1人が貯蓄率が100万円未満、3人に1人が300万円未満、というデータがある。当事者にとって切迫した現状であり、だからこそそうならないように多くの人が「老後の資金」集めに頭を悩ませているわけだ。
「60歳、貯蓄ゼロ」でも安心した老後を送るためには何が必要なのか? 株式投資などの資金運用が思い浮かぶが、本書は資金運用をしなくても老後資金を増やす方法を提示する。
公的年金、退職金、社会保障制度の、<徹底した活用方法>がそれだ。
サラリーマン、自営業者、単身者など5人のモデルが想定されているので、読者に近い立場のモデルが見つかるはずだ。
年金は信用できるのか、どの時点で受給すればよいか、どこまで仕事をし続ければよいか、など素人には判断が難しいが、本書では極めてわかりやすく説明している。まだ60歳に届いていない人にも参考になる。
なお本ブログでは、過去に著者の本を取り上げたことがある。『定年の教科書 お金 健康 生きがい』は本書に近いテーマで、老後をどうやって生きるかヒントになる良書だ。(本体1500円)
2021年11月 8日 (月)
本の紹介『「生まれ変わり」を科学する』(大門正幸著)
本書のデータによれば、日本で「生まれ変わり現象」を信じている人は42.6%(2008年)。決して少なくない割合だ(ちなみに1位は台湾で59.8%)。
ただ一般的には「科学的でない」とか、甚だしくは「オカルトもどき」と揶揄される傾向がある。実際はどうなのか? 日本における生まれ変わり研究の第一人者といえる大門正幸氏(中部大学大学院教授)の本書は、世界の生まれ変わり研究の実績と、自身の調査結果を踏まえて書かれており、生まれ変わり問題を考察するのに格好の一冊となっている。
生まれ変わり研究の第一人者は、アメリカの精神科教授のイアン・スティーブンソン(1918-2007)という人物である。「前世の記憶をよみがえらせた」子どもにつき、40年にわたって面接調査をした。膨大な調査のうち本書ではいくつかの事例が取り上げられている。
例えば、スリランカのある双子姉妹が、自分たちは反政府暴動を起こそうとして警官に殺害された双子の男性の生まれ変わりだと述べ、二人が知りようがない男性たちの死に際の詳しい状況を語ったというものだ。
こうした「過去生を語る子どもの事例」を通してみるとき、それは子どもの親の信仰とは関係がないこと、また子どもは幼い頃に過去生の話をしだすが、成長するにつれて記憶は薄れていき、やがて忘れてしまうという特徴があることがわかってきたという。
多くの驚くべき調査結果を見ても、生まれ変わりがあるか否かの判断は、読者の生死に関わる観念に委ねられるだろう。ただし生まれ変わり論にはそれなりの根拠があると知れば、「それを知らなかった頃と比べ、自分と自分を取り巻く世界を、より輝かしく、より愛しいものに感じさせて」くれるのは事実である(本書あとがきより)。
(桜の花出版。定価1485円)
なお大門氏の著書は本紙でも過去、取り上げたことがある。
書評『人は生まれ変われる。前世と胎内記憶から学ぶ生きる意味』
2021年8月23日 (月)
本の紹介『実録 明治学院大学〈授業盗聴〉事件―盗聴される授業、検閲される教科書』(寄川条路編)
2015年に起きた明治学院大学の授業盗聴事件(2015年)については、これまでアクセスジャーナル本編でも3回取り上げたことがあるが、本書はその結末までを概括したもの。
授業を無断録音(盗聴)されたことを大学側に抗議したために懲戒解雇された寄川条路教授が、地位確認を求め東京地裁に労働審判の申し立てをした。大学側は調停案を拒否したため、改めて東京地裁に地位確認訴訟として提訴。2018年、東京地裁は解雇違法の判決を出した。その後、控訴審で和解し、大学側は授業の無断録音を謝罪して和解金を支払った。
学問や教育の自由に関わる重大裁判であったことから本紙も注目してきたが、本書はその具体的経緯ばかりでなく、大学側の主張やメディアの報道記事も含めて収録した概括的な本となっている。
この事件が特異なのは、明治学院大学の「キリスト教主義の押しつけ」が強烈なこと。大学の校風に沿わない教員の授業は盗聴までおこない、それを理由に解雇するとは、まさに“中世の魔女狩り”を思わせる。
本書第5章「新聞報道から」にはアクセスジャーナル記事が転載されている。参考までに紹介しておく。
(1)「いじめ対策せず」元高校女生徒に続き――大学でも「盗聴」に抗議する教授を懲戒解雇し提訴されていた「明治学院」
(2)明治学院大学――授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)
(3)和解も無断録音につき大学側謝罪――明治学院大学「授業盗聴」事件の結末
(社会評論社。本体1000円)
2021年8月 4日 (水)
本の紹介『健康リスクから会社を守る!!』(佐藤典久・下村洋一共著。税務研究会出版局)
中小企業で働く人々の健康管理がますます必要な時代になった。中小企業に対しては、2020年4月から働き方改革関連法が適用されるようになり、2022年4月からはパワハラ防止法も適用される。加えて、昨年から新型コロナウイルス感染症対策に伴いテレワークなど「新しい働かせ方」への対応が日々、経営者に求められる。
このような時代のなかで、経営者はどのような健康管理体制を敷き、働き方改革を実現しなければならないか。大企業と違い従業員の健康を管理する産業医がいない中小企業では、頭を悩ます経営者も多いのではないか。
本書は健康診断の活用法や職場の感染症対策、メンタルヘルス、長時間労働者対策など、経営者として知っておかなければならない基本知識が網羅されている。本書副題の「知らなかったではすまされない従業員の健康管理と改正安衛法対策」がそれだ。
ただそれだけではなく、少子高齢化で人手不足の業界も多い今の時代、高年齢者や障害者を雇用するにあたって、雇う側として注意しなければならないことも具体的に書かれている。
言うまでもなく、従業員が健康なら生産性も向上するし、不健康なら生産性が低下する。そればかりか経営リスクにもつながる。
経営者向けに書かれた本ではあるが、中小企業で働く人も自らの健康を守る上で、自分にどのような権利があるのか、知っておいた方がよい。
株式会社日本産業医支援機構執行役員の佐藤典久氏と労働安全衛生コンサルタントの下村洋一氏の共著。(本体2000円)
2021年6月25日 (金)
『看取り医 独庵』(根津潤太郎著。小学館文庫)
著者・根津潤太郎の本名は米山公啓氏で、医学博士(専門は神経内科)。これまで医学ミステリーや医学実用書など多数、執筆してきたが、本書は初の書き下ろし時代小説だ。
舞台は江戸中期の浅草。漢方と西洋医術を治めた医師、独庵こと壬生玄宗が浅草に開いた診療所は、一流の医術の腕前が評判を呼んで大忙し。裕福な商人には法外な診察代を請求する一方、庶民の診察代は低く抑える好人物(こう聞くと手塚治虫の漫画「ブラックジャック」が思い浮かぶが、手塚治虫もまた医師資格を持っていた)。
そんな独庵のもとにある往診依頼がやってくる。ある材木問屋の主・徳右衛門の脇腹に腫物があり、不治の病とされるのだが、独庵が診療したところ、思いもよらぬ仇討ち話に発展していく。剣の腕も経つ独庵、この事件をいかに解決するのか・・・。(税込726円)
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